『HALI』の34年から読み取る絨毯市場の変化

『HALI』は、絨毯をはじめとするフォークテキスタイル業界で最も権威のある雑誌だ。
1978年、ロンドンで創刊されて以来、ほぼ年4回のペースで刊行されてきている。
創刊時の編集長は最古のオークショウハウスであるサザビーズで働いていたIan Bennet。
ルーツがオークションにあるためか、アカデミックな論文と半々くらいで絨毯屋やオークションなどのグラビア広告が掲載されている。
最近ではiphoneipadのような端末で読める電子書籍形式の配信も行っており、こちらは最初の数ページなら無料で読むことができる。


『HALI』の歴史は、欧米を中心とした絨毯市場の歴史と言っても過言ではない。
絨毯市場には絨毯を作る東洋・買う西洋という構造があるが、
最近の『HALI』は、西洋市場に打って出る絨毯生産国の商人の広告が目に付くような気がする。
広告を出稿する出稿主は絨毯屋やオークションハウス、バイヤーなどであり、つまりは絨毯を売りたい人たちである。
広告の出稿主の国籍を分析することで、「売る」段階においてどの国の商人が絨毯の国際マーケットで活躍しているのかを知ることができると考えた。


通算172冊存在する『HALI』。
創刊年である1978年のVol.2から欠番がない限り3年毎に、広告出稿主を数え上げた。
マーケットに参与する国を正確に数えるため、複数の事業所があるものについては同国複数事業所ならば1つの事業所としてカウントし、
複数の国にまたがっている会社は国ごとに1つづつカウントした。なお、メールボックスしかあて先がない広告も、電話番号等から可能な限り追跡した。
また、通常の広告に加えて、絨毯のグラビアに主眼を置きながらも提供事業者の連絡先も掲載する「HALI Garally」や、事業者同士の連絡先が名刺のような形式で掲載されている「network」のコーナーも実質的には広告であるとみなし、カウントに含めている。
このような条件で調査した結果が、この表だ。

読み取れるのは、以下のことだ。

・イギリスとアメリカが主たる広告主。
・ドイツ(東西ドイツ時代は西ドイツからのみ出稿があった)、オーストリア、イタリア、フランス、スウェーデンからもコンスタントに出稿されている。
・絨毯生産国からは、まず1980年代初頭はインドから出稿が多い。次に1980年代後半からはトルコと香港、1990年代はじめからはイラン、シンガポールが出稿数を伸ばしている。
・1996年の統計ではアフリカ大陸のモロッコ南アフリカから、1999年統計ではブラジルとアルゼンチンという南米の国からも広告が出ている。
・領土内に多くの絨毯生産地域を持つソ連ロシア連邦の系列の国々からは出稿がない。


さらにこの表を地域別にまとめたグラフを作成した。

・ヨーロッパからの出稿割合の減少と北米からの出稿割合の増加の傾向。
・西洋と東洋に二分すると、西洋からの出稿割合が徐々に減り、東洋とくにアジアからの出稿がゼロから全体の15%程度まで増加している。
オセアニアや南米、アフリカはほとんど存在感がない。

総合してみると、

  • 東洋の絨毯商が勢力を伸ばしている!
  • 西洋の中でもイギリスからアメリカへ勢力がシフトしている!世界情勢を反映している。
  • 共産圏との隔絶がある。
  • 振興富裕のアジア国では、地元のテキスタイルを西洋に売るほかに、西洋と同様に絨毯を売買するようになったと考えられる。

こんなかんじかなぁと思います。
それにしても、最初期の『HALI』を読むと生唾出るような絨毯が安い値段で西洋に買い毟られているのがわかるので歯がゆいです。
仲買で活躍してきた歴史は今回の分析には現れないですが、現地の商人さんにはもっと西洋相手にメイクマネーして頑張ってほしいなぁと思います。

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