ヤオ族の結婚式に招かれた

ヤオ族の村に着いた。

村の入り口から中を窺うと、高床式のアカ族の村とは異なって、平屋が連なっている。

 

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村の入り口に民族衣装のおばあさん。

出ました。写真撮らせてくれる代わりに手工芸を売る、ビジネスおばあさん。

オフシーズンなのに入り口に居るの流石ですね。

「前以て電話とかした?」とガイドに聞こうと思ったが、

この人が前以てなにかをするとは思えなかったので聞くのはやめた。

需要と供給が完全にマッチしているので、断る理由がない。

衣装を隈なく見せてもらう。

黒に近くなるほど藍で染めたターバンは縁を繊細な刺繍で彩られている。

これも黒の丈の長いジャケットは、もこもこの赤い毛糸のボンボン状のもので襟が構成されている。袖口に青を基調とした細かなクロスステッチ

その下に纏うパンツがとんでもない。超絶細かいクロスステッチで、びっしりである。とんでもねぇ。とんでもねぇよ、、、と慄いていたら、

「おばあさんが作った」とガイドが通訳する。

ドヤ顔のおばあさん。あなたが神か。ハンディクラフトの神か。

「これは売り物じゃないよ」

ええ。そうでしょうとも。

 

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眼福至極。多謝手工芸神。祈長寿。

興奮して思考がエセ中国語になりながら、同じ意味の言葉を通訳してもらう。

おばあさんがかっかっと笑った。

 

 

おばあさんに別れを告げて村の奥へ歩を進める。

軒下に刺繍をする女性たちを見つけた。

女3世代。それぞれになにか作業をしている。

挨拶すると、剥いたドラゴンフルーツをくれた。

もぐもぐしながら、ガイドは世間話。私は刺繍の手元に夢中になる。

 

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ヤオ族の刺繍の名高さは、日本でも予習済みだったが、近くで見ると実に細かい。

こうして刺繍している作品は、バイヤーが町に持って行って売るのだという。

同様のものをルアンパバーンでも見たので、嘘ではないと思う。

こうして手工芸が現金収入に直結すると、その手工芸は生き残ることができる。

この若い娘さんは、ヤオ族ではない。

嫁にきて、今ヤオの刺繍を学んでいるのだという。

 

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それにしてはとってもお上手だと思いますよ

ゆっくりと時間が流れる軒下で、ヤオの刺繍が伝承されているのを見ながら、

ドラゴンフルーツを頬張る。

この村でも、ゴムの白い塊はよく見る。

ゴムもいいけど、女性が現金収入の手段を持つことは、とてもいいことだ。

暫し穏やかな時間が流れて、またねを告げる。まだ村の半分もいっていない。

 

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村の中を歩いていると、庭に赤いプラスチックの椅子や机が並べられた家があった。

例の民族衣装を着た人たちもちらほらいる。

なんだこれは。

 

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衣装を着た人たちに聞いてみると、結婚式の支度をしているのだという。

すごいなー!!見たいなー!!でもまだ支度かー!!

村の奥まで行って、戻ってくるときにかちあえたらいいなと思って歩いていたら、

出会ってしまった。

 

ガレージの奥。

強い日差しに白く色が飛ぶような日向より、かえって色彩が判別できる日陰。

美しい人と目があった。

言葉にならない声が漏れる。口許を手で抑える。

向こうもはっきりと私に目を合わせてくる。

この人だ。今日の主役だ。花嫁さんだ。

その花嫁さんが、手招きをする。

吸い寄せられる。

あまりに綺麗な、絢爛豪華な、美しい、煌びやかな、輝くばかりの、、形容詞が足りない。

花嫁にしては大人しめのツヤ肌メイク。上品だ。

「とても美しいです。ご結婚おめでとうございます」

花嫁さんが「謝謝」と言った声の甘く小さなこと!

萌えええええええええ!!私の中のオタクが絶叫する。

写真撮影の許可をもらうと、世間話するガイドをよそに、うっとりシャッターを切りまくる私。

 

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写真を撮っては見せ、撮っては見せ、、、、

そうこうしているうちに着付けは終わり、ちゃんと自己紹介をする。

名前はファム。19歳。新郎は23歳。お見合いだったらしい。

都会に働きに行って出会った二人。この村は新婦の村で、これからは新郎の村に住む。

唐突に、ファムが言う。「写真を撮ってくれてありがとう」

「「いや、こちらこそですよ!!」」声がでかくなってしまった。

「結婚式に来てください」というファムの提案を聞いた時は、

天上から天使の音楽が聞こえた気がした。 

人生の晴れ舞台に、こんな行きずりの何処の馬の骨とも知れない外国人を招いてくれるなんて。

 

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ファムの2人の妹たちも同様の民族衣装を着付けされている。

10代も半ば過ぎた妹は、きちんと晴れ着を着ることができた。

10歳ぐらいの妹は、着物に着られている状態。

ジャケットの裾はずりずり床をするし、

パンツのウェストはぶかぶかでずり落ちるし、

頭のターバンは多分彼女には重くて、

余った袖を手で弄んでいる。

その様子が可愛くて可笑しいので、着付けのおばさまたちは大笑い。

 

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みんなの着付けが終わって、先程の家に向かって新郎新婦を始めみんなが向かい始めた。

私は、既に一杯やり始めているおじさんたちのテーブルに通され、

ご飯を振舞われた。注がれるビール。

こんな幸せありますか?

おじさんたちは、ごくごくラフな格好をしている。

中には裸に羽織ったシャツのボタンをかけず、乳首が見えてるおじさんも。

いやいや寝間着かよ?女性たちは長袖もこもこ襟よ?

まぁ、私も大変ラフな格好をしているのだが。

おいガイド、飲んじゃダメだろ。運転する気ある?

 

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人がざわざわし始めたので、何だろうと思って観察していたら、何かセレモニーのようなものが始まっているみたいだ。

まず、テーブルを挟んで新郎新婦と客が正対し、テーブルの上の生米の鉢の上にお札を置く。

すると、新郎がタバコ2本、新婦がオレンジジュース2杯を勧め、客はそれを頂く。

客は最後にタオルを1枚頂いて、終了。次の人へ。

私も、ガイドに祝儀の相場を聞いて列に並ぶ。

 

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 あらかた出席者のご祝儀セレモニーが終わったようだ。

私は、おばさまに連れられ、

「ここに座れ」と、たぶんそう言われて、

ひとり母屋の会食会場の席に座らされた。

またもや料理と酒である。

みんなバラバラと座りだした。空席もある。

何か掛け声やいただきますがあるかしらと待っていたが、

みな好きに食べ、飲み始めている。横のおばさまに勧められて私も頂くことにした。

ガイドを探す。

少し離れたところでビールを注いでもらっている。運転大丈夫かおい。

 

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新郎新婦も着席して、食事をし始める。

と、私の隣のおばさまがファムに何やら語り始めた。

食事を中止して真剣に聞く新郎新婦。

涙ぐみ、やがてしゃくり上げるほど号泣するファム。

察した。

隣のおばさまは、ファムのお母さんだ。

私、花嫁の母親隣の席に座っている。

えっ、これめっちゃ重要な席では?

いいのかファム。いいのかファムのお母さん。

いや、ここに座れと言ったのはファムのお母さんだ。

しかし感動的なスピーチなのだろうが、何を言っているか全然わからない。

どんな顔して座ってるのが正解なのかわからない。

なぜなら!!ラオ語が!!わからないから!!!

何を言ってるのか知りたい。

ガイドの方を見やる。通訳してもらうには遠すぎる。

なぜかガイドがもらい泣きしている。

これはもう時間が経つのを待つしかない。 

汗がにじみ出る。時計を見たら、もう30分くらい話している。

 

たぶん出席者みんな、母娘の感動の対話に聞き入った。

終わったタイミングで、民族衣装を着た親戚のおばさまが席を立つ。

戻ってきたときには、tシャツ短パンに着替えていた。

私が、あー!という顔をすると、

親戚のおばちゃんは、汗染みのついたtシャツを見せて、

「だって暑くって」とたぶんそう言って、

私は、「まー、そうですよねー」と納得した顔を返した。

やはりオシャレは我慢か。

ファムも目頭を抑えながら退席し、tシャツになって戻ってきた。

結婚式は終わったらしい。

私もそろそろお暇する時間かな。

感謝と別れを告げる。

 

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ばいばい、お互いに、いい人生を

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新郎の家族は外で会食していた


車の中で、ガイドに母のスピーチの内容について聞いてみた。

結婚前は許されたこともあるけれど、結婚後は許されないこともある、、、

これはするな、あれはしろ、、、みたいな訓示だったらしい。

ざっくり解説だなー、と思いながら、カーステレオから流れる音楽を聴いていたら、

「こんなことは、ガイドを6年やってきたけど初めてだ。ラッキーだったね」と言う。

そうかすごくラッキーだったんだな、旅の神様ありがとう。という気持ちと、

え、ガイドさん6年やってて寝坊に飲酒運転?という気持ちが交錯した。