はじまりのころも と、その謎
初まりの衣がある。
フォークテキスタイルにはまった、きっかけ。
私は、北パキスタンで、古い刺繍の羽織を買った。
山あいに延びる細長い町。
坂の上の絨毯屋の欄干に、その羽織は掛かっていた。
高く蒼い空に緑の表地と赤の裏地が翻っていた。
捕まえると、布の端に緻密な刺繍が施してある。
毎日その店に通って、悩みに悩んで人に背中を押されて、日本に連れて帰った。
知識なんてなかった。よくわからないまま買ってしまった。
闇雲に産地を尋ねると、店主は「(ウズベキスタンの)ブハラ、ブハラ」と繰り返していた。
店主に無知を見抜かれて、適当なことを言われた、、、、ような気がしていた。
今日、絨毯好きの集まる庵で、
例の羽織と一緒に買ったシルクの布の鑑定をお願いした。
ウズベクの服飾を調べてもあんまり似たものがなかったからだ。
結論から言うと、カラカルパクスタン共和国の布だった。
カラパクは、ウズベキスタンの中でもトルクメニスタンと国境を接する自治国。
トルクメンの多いこの地の人がブハラに品物を売りに来たのではないか、ということだった。
「トルクメンっぽいと思った。」
「だいぶ使い込んである。擦れてる部分からすると、四つ折りにして使ったのではないか?」
「HALIに似たのがある。カラパクのものだ。」
「その写真なら、webで全身映ったのが見れる。」
「カラパクの女性の写真はこんなだから似ている。」
知識を動員し、書籍を引用し、スマホを駆使し、
賢者たちはものの15分で衣の謎を解いてしまった。
この人らすっげーな。
フォークテキスタイルは、謎が多い。ましてや私は初級者だから。
現物に出会っても、使い方や出自がわからないものも珍しくない。
今回は、民芸品としての魅力だけではなく、推理小説を解くような面白さに引きこまれた。
だから、惹かれ続けてしまうだろう。
始まりの頃も。これからも。