イランのアルコール事情
お酒を飲まないつくらない持ち込ませない。
厳格なイスラムの教えを守るイランではお酒は法律で禁止されている。
出発前に見た映画『ペルセポリス』では、警察の目を盗んで反体制派が密造酒パーティーするエピソードが描かれている。
イラン社会のディープなとこを見てみたい!!
そう思っていた私は、意外なところで密造酒を飲む機会を得た。
「家でビールでも飲まない?」
懇意になった絨毯屋の店主が私に提案した。
聞くと、家に自分で作った密造酒があるという。
願ってもない申し出だ。
店主にも警察にも細心の注意を払って、ビールを飲みにゆくことにした。
シーラーズの絨毯屋さんはみんな商売上手。なかなか負けてくれない。
台所。冷蔵庫のポケットにそれはあった。
イランでもよく売られているノンアルコールビール(見た目はビールそのもの)の瓶に入っていた。
「これはノンアルコールではないの?」
「いや、僕が作ったビールだ」
製法を聞くと、普通に手に入るノンアルビールにパン作りに使うイースト菌を混ぜ、数日放置したものらしい。
なるほど、これなら個人でも手軽に安くビールが作れる。
イランでは一般的な?製法らしい。
ちなみに密造酒の売買や流通もごく少数あるとのことだが、危険すぎて手を出せないようだ。
それにしても、本当にビールの味がするのだろうか?コップについでみた。
飲んでみる。
確かにビールの味がした。炭酸もかすかに感じられる。ただ、エグ味が強い。
あまり美味しくないが、ここでは貴重な品だ。
店主はドイツに移民した過去があり、ドイツ国籍を持っていた。
ドイツでも絨毯商で生計を立てているらしいが、難しくなってイランに戻ってきたのだという。
祖国にあってもビールを飲みたくなるのは、ビール大国ドイツ市民なら致し方ない気もする。
ドイツビールを知っている人がこのイースト菌ビールで我慢しているのかと思うと涙ぐましい。
ビール片手に、アメリカに亡命したイラン放送局の衛星放送を見た。
正月番組でめでたい雰囲気だ。言葉はわからないがそれは伝わる。
女性が肩を露出し、髪を露わに歌っていた。テレビの向こうはアメリカだ。
「あなたはイスラム法からの自由を求めているんだね」
言おうとしたが、躊躇われる。私はエグいビールを飲み下した。